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ビデオゲーム制作のノウハウ

U.S.A.への手がかり For Arcade Game

1988年、アメリカ市場に適したアーケード用ビデオゲーム作りのノウハウを、アメリカ向けに業務用ゲームを作る後輩への助言と、家庭用ゲームを作る開発員の参考のために整理した文書
対象はアメリカ文化を知らない日本人開発者
当時はこれが功を奏するか否かは未知だったが、10年間の成功を経、正しかったと言える
日本市場に対してそぐわない記述もあるが、役立つ部分もある
ゲーム制作以外に対してそぐわない記述もあるが、役立つ部分もある

内容は上司の承認を得たものではない
「会社の方針」ではなく、2年半のアメリカ駐在から帰国し、国内の開発部に於いてアメリカ向けゲームを増やしたかった「井上の助言」
文責は井上正廣にあり

体裁を整えはしたが、内容に変更はない
今ならもっと書き足したい項目はあるが、当時の思惑を尊重し、加えていない



U.S.A.への手がかり For Arcade Game

1985年、コナミのアーケードゲーム開発部門において、日本とU.S.A.で好まれるゲーム性の違いがクローズアップされ始めた。
それまではビデオゲームの歴史も浅く、どんなものでもある程度は売れる「売り手市場」だったものが、プレイヤが好みのゲームを選ぶ「買い手市場」への変貌の年だったと言える。

コナミでは他社に先駆けこの点をいち早く重視し、コナミインク(U.S.A.の販売会社)内に開発チームを派遣する事になった。
以来2年半にわたりシカゴに住み、アメリカ市場をメインターゲットとした商品開発を行なってきたが、この間あらゆる面において日本に居たのでは分からない部分が見えてきた。
日本でささやかれるU.S.A.についての常識などそのほとんどが誇大表現であり、又は一部地域(特に西海岸)のみの情報で、数か月以上現地に住まなければその実状は分からない。

残念なことに現在のところ、海外に居るスタッフから情報を伝えるシステムがなく、今後市場調査の分野を確立する事は急務であると考えるが、とりあえずこれに先立ち、アメリカ市場をターゲットとするにあたって最低限知っておかなければならない点を挙げておく。
文章内には信じ難い部分や理解し難い部分が多々あると思うが、願わくば、何も考えず鵜呑みにしてほしい。
また、要約した文章が多く、詳細については口頭での説明を要すると思うが、それは事ある毎に行なうとし、U.S.A.をターゲットとするのであればここに挙げたものぐらいは覚えておいて頂きたい。

Sep 1988 井上正廣


  1. アーケードとストリート
  2. ディストリビュータ
  3. アップライト
  4. トークン
  5. リアリズム
  6. 誤解
  7. 長寿命
  8. プレイ法
  9. インカム
  10. プレイヤの攻略
  11. 難度
  12. テーマの選択
  13. 企画
  14. 完成度
  15. 資料
  16. サイトテスト
  17. 売値の設定
  18. キャビネット
  19. 世界的ヒットを目指す


【 1. アーケードとストリート】

ロケーション(ゲーム機設置場所)はアーケードとストリートに大別される。

アーケードとは日本のゲームセンターの様にゲーム機だけで商売をしている店。
日本と違い軒を並べる事はなく、自転車しか持っていない者は家に近いアーケードにしか行かないと思われる。
大きなショッピングセンターにもアーケードがあるので映画の待ち時間に利用するケースも多い。友達同士はもちろん、アベックや家族連れも多い。

これに対し、セブンイレブンやボーリング場のゲームコーナーをストリートロケーションと呼ぶ。
置かれているゲームは数台で、ヒットゲーム等でなければ新機種は設置されない。

新ゲームの需要面から言えば、ヒットしないゲームの市場はアーケードに限定され、売れても4,000と思われる。
ところが高インカムのゲームであればストリートにまで市場が広がり、8,000以上に膨れ上がる。

尚U.S.A.は広大な国で、アーケードやストリートは点在しているため、チェーン店同士は別として、各店の間での情報の伝わる速度は非常に遅い。
と同時にプレイヤから見ても隣町のロケの新製品など知る事は出来ない。


【 2. ディストリビュータ】

広大すぎるU.S.A.においてコナミインクから直接ロケーションに販売する事は不可能で、アーケードゲームの場合は各地のディストリビュータに対して販売を行なう。
ディストリビュータはアーケード等に販売をかけるが、これと共にアーケードへの情報提供者でもある。
よってディストリビュータは情報操作も可能であり、業界において非常に強い力を持っている。
以前 Centuriがディストリビュータを介さずロケに直接販売を始めたが、間もなく業界から抹殺された。


【 3. アップライト】

体感ゲームを別とすればビデオゲームのほとんどはアップライト筐体に納まっており、カクテル筐体やテーブル筐体は無いに等しい。
推測だが、業務用ゲームのルーツがピンボールである事に起因するものと思われる。
アメリカ人は足腰が弱いと言われるが、こと立っている事について言えば日本人とは比べものにならないほど耐久力がある。
アップライトでのプレイは取りも直さず立ってプレイする事であり、椅子に座って小手先でプレイするのとでは大きく異なり、体でプレイする事を意味する
この点が日本とU.S.A.とのゲーム性を分ける重大な要素のひとつと言える。
つまり、日本に於いてプレイヤは「主人公の操作者」にすぎないが、U.S.A.ではプレイヤは「主人公そのもの」であり、より「ゲームに没頭している」。
従ってU.S.A.のプレイヤは細かい点にはこだわらず、雑な作りの作品でも粗が見えない


【 4. トークン】

クォーター(25セント硬貨の通称)の価値をもつコイン。
アーケードの多くはコインシュータのセレクタをトークン専用に換えている。
トークン販売機に1ドル紙幣を入れれば4トークン、5ドル紙幣を入れれば25トークン出てくる。クォーターを入れれば1トークン出てくるが、少年でなければそんな恥ずかしい事はできない。
トークンの採用によりプレイヤにとっては割安にゲームをプレイできるメリットがあり、アーケードにとっては最低1ドルを取れるメリットがある。
アーケード側のメリットを確保する手段として、トークンはアーケード毎に違う種類のものが使用される。但し同じチェーン店では同じトークンの使用が可能。
小さなアーケードでは火曜日だけ1ドル8トークンにして客足をつないだり、逆に大きなアーケードでは旧ゲームのみトークンを使わせてささやかなサービスを行なっている。
プレイ料金の相場は、ジョイスティックとボタン及び特殊機構のないハンドル・アクセル・ブレーキで操作するゲームは1トークン、シットダウンのドライブ物や特殊機構のあるアップライトなら2トークン、『ハングオン』や『アウトラン』程度の体感で3トークン、最近では『ウェック(ビッグスピン)』や『アフターバーナー(ダブルクレイドル)』が4トークンで出されている。
ところでストリートではトークンは使われず、複数コインのゲームも殆ど見られない。


【 5. リアリズム】

U.S.A.でのヒットゲームにおける柱のひとつがリアリズムであり、かろうじて日本人に理解できる分野がこれである。

異分野であるが、鉄球を打つピンボール、鉄のパックを投げ滑らせる簡易ボーリング、ゴムボールをシュートするバスケット、6本ほどの棒を操るホッケー、等々、身体を使うゲームがU.S.A.のアーケードから無くなる事はない。
ビデオゲームがこれら元祖体感ゲームをインカムで優る事は出来ても、遊びの徳で優る事は不可能である。
この観点から、キャラ・音・動き及びゲーム性についてはリアリズムを重視した方がヒットゲームとなる可能性は確実に大きい
ここでひとつことわっておくがリアリズムとは決して「本物」という意味ではない。記憶の中にある体験及び疑似体験を指す。従って『スターウォーズ』での戦闘機戦やランボー1人で一個中隊を殲滅する事は充分リアルと言える。又、ジム・マクマーン(ベアーズのクォーターバック)の感動的なパスやラリー・バード(セルティクスのポイントゲッタ)の奇跡的なロングシュート、マイク・タイソンの他を寄せ付けない強さは一個人のものではなくアメリカ人共通のリアリズムと化している。
日本ではゲームらしさの追求から、一つのゲームの中に多くのゲーム性を盛り込んでいるが、リアリズムを主とするゲームであればゲーム性はひとつで充分であり又、できうる限り追求しなければならない


【 6. 誤解】

アメリカ人と日本人とでは物の見方・考え方に大きな違いがあり、我社を含め日本のメーカーは多くの間違いを犯している。細かく挙げればきりが無いが簡単に考えつくものを挙げてみる。

キャラクタ:
絵画ではなく動画である。
一枚の絵の美しさなどどうでもよく、どう動くかがキャラクタの命と言える。日本の作画監督は動画を造る事に注意を払わなければならない。
人間が2メートルもジャンプしたり、戦闘機が慣性を持たずに動く事に疑惑を持っているだろうか。持っていないとすれば論外だが、持っているのであればこれらをどの様に「らしく」見せるかがキャラデザイナの腕の見せどころとなる。
人物を細身にしリアクションを派手にすれば高く飛んでもリアルに見え、方向制御用ノズルから小さな火花を出せば慣性を無視した飛行もリアルに映る。

色:
リアルにしようとしてグラデーションを多用する傾向があるがこれも誤解。アメコミは黒ベタと高彩度の色で描かれている。又U.S.A.に中間色やパステルカラーは似合わない。

音:
特にBGMが無駄である。ゲームに没頭するアメリカ人にとってBGMなどそれほど大きな要素ではなく、これに多大な労力を費やすのは間違えている。
又、(キャラクタについても同じ事が言えるが)全般的な雰囲気を暗くする向きがあるが、そうではなく派手にする方が良い。アメリカ人の求めるものはパワーだ

企画:
例えば、同じ「野球」をテーマとしても日本では『ワールドスタジアム』、U.S.A.では『World Series Baseball』となる。どちらも造られた国では受け入れられ、他方では商売にならない。
これは日本のマンガを目指すかU.S.A.のTVを目指すかで違いが現れる。当然であるがU.S.A.をターゲットにするならU.S.A.内に有る物を扱わなければいけない。

マニア:
U.S.A.にもマニアは居る。しかし彼らは純粋にプレイを目的とした個人で、決して日本の様な知識を目的とした集団ではない。従ってゲームファンクラブも無ければゲーム情報誌も無く、ナムコ路線は有り得ない。

人種問題:
人種を越えて星条旗の下に団結している。とは一見にすぎず、当然だが非常に複雑な問題である。
黒人は言うに及ばず、イタリア系、メキシコ系の人達も不当な見られ方をする。
星条旗が有るからこそ何とか自分達は同類だと考えて我慢できるのであって、無ければいつどこで争いが始まってもおかしくない。
見知らぬ者と出会えば「ハロー」と声をかけるのが習慣になっているが、元を質せばそうする事で争いを防いだのであろう。握手の本来の意味が武器不所持を伝える行動である事は有名である。
白人は黒人に差別意識(自分では区別と呼ぶ)を持っているが、黒人も白人に対抗意識を持っている。
これらの問題は生活に密着したものであり、アメリカ人は人種問題に神経質になっている。従ってゲームに黒人やメキシカン・イタリアンを出す場合は注意が必要で、差別的な扱いや偏見を生む可能性があるものは避けた方が良い


【 7. 長寿命】

飽きない。面白い事はいつまでもする。バスケのゴール(フープ)とボールさえあれば何時間でも遊ぶ。プールサイドから人を突き落としたり投げ入れたり、日本人なら数回で終わる遊びを30分でも1時間でも続ける。
始めに「飽きない」と書いたが、決して飽きないわけではない。これはひとえに見方の違いと言える。バスケットボールをシュートしたりプールに人を落としたりする事はひとつのゲームだが、ゴールの仕方やプールへの落ち方は毎回違うはずで、アメリカ人はそれらひとつひとつを異なったゲームと見ている。
もう一点。ゲームの種類の少なさとアーケード間の広さが日本とは比べものにならず、プレイヤの目移りを妨げている。
これらの点からパートⅡ物を作る際には注意が必要で、前作発売から1年半は間をおかなければならない。『スーパーコントラ』は高インカムを挙げながらもそれに見合うほど売れなかったが、原因として発売が10か月ほど早すぎた為と思われる。又『ガントレット』も発売後1年を経過して『ガントレットⅡ』を出したが、パートⅠのその時点でのインカムが高すぎた為あまり売れなかった。


【 8. プレイ法】

2点において日本とは大きく異なっている。
まず第一にプレイ料金が挙げられる。1回のプレイは25~35円が基本であり、プレイヤがキャビネットの前に立てばクォータ又はトークンを5枚(約150円)でも10枚(300円弱)でもつぎ込む可能性がある点を見逃してはならない。
もう一点、複数同時プレイが可能なゲームを本当に複数でプレイする事が挙げられる。
協力型・対戦型を問わず、更に、見知らぬ者同士でも違和感なく隣に立ってプレイし、教え、腹を立て、笑い、会話する。
よって複数のプレイヤがコインをどんどん注ぎ込むゲームこそプレイヤの期待に応える機種と言える。
この点においてメーカーの目標とプレイヤの指向は一致しており、遠慮なくコインをつぎ込ませるゲームを作らなければならない
この代表機種が『ガントレット』で、コインを一度に30枚ほど入れている事もよくあった。『ダブルドリブル』でも二人で48枚のコインを注ぎ込む光景を何度か目にした。『メインエベント』もモニターに張り付けたコイン約50枚で画面下方の両隅が隠れる事もあった。


【 9. インカム】

ゲームが動いている時間やプレイヤの数には当然上限がある。この条件下で高インカムをマークしているのは複数同時プレイが可能な機種か複数コインを必要とする大型機となる。
5年前とは時代が違うのだから交互プレイの1コインスタートゲームでは他機種との勝負にはならない。もちろんそれでも健闘する機種が無いわけではないが、最初から不利な条件で開発に着手するのは愚かしいと思える。
又、たとえ複数コインや複数プレイヤのゲームを作っても激しくコインを投入させなければトップクラスのゲームにはならない。従って企画の際にはゲーム性を論じる前に、日に$100(400コイン)を稼ぐ可能性の有無について検討しておかねばならず、それが不可能なら着手しない方が良い
最近では2コインの2Pゲームが出始め、今後益々トップゲームのインカムが高騰していくだろう。
美麗なグラフィックス、迫力のサウンドイフェクトも世に出回らなければ、高インカムを稼がなければ、評価の対象にならないと思ってほしい。


【 10. プレイヤの攻略】

テーマさえしっかりしていれば次に大事な事はプレイヤを倒す事である。
どんなにテーマの良いゲームでも学習効果の高いものはすぐにインカムが落ちてしまう
日に$25のインカムが低インカムとすればすなわち100コイン($25)が低インカムであり、日本市場にある100コインで高インカムとみなされる様なゲーム作りでは話にならない
しかし難度でプレイヤを殺そうとすれば初心者と上級者の格差が問題となる。
そこでプレイヤ攻略と難度とは別物と考える。
プレイヤのちょっとした不注意(アメリカ人は油断やスキが多い)や、不注意とは言えない様な偶然によってコインを奪う事が大切な要素となる。それでも彼らはプレイするに値すると思い込めば幾十ものコインを投入する。


【 11. 難度】

決してなだらかに上げていってはいけないし、プレイヤをアウトにする手段であってはいけない

現実の世界では西武ライオンズが近鉄バッファローズを相手にしても楽勝の時もあればじり貧の時もある。
この演出が難度のリアリズムであり、だからこそ面白い。
又、初級プレイヤには初級の敵、上級プレイヤには上級の敵を与えなければ楽しめるゲームにはなり得ない。
プレイヤ同士の対戦の場合は初級者を助け、上級者を押えなければ2人で楽しめるはずがない。
よって難度とは、プレイヤ対CPU又はプレイヤ対プレイヤを同級に引き寄せ、更に随時どちらかを有利にしてリアリズムを演出する手段として設定しなければいけない。

*『ダブルドリブル』での難度及びプレイヤ攻略法
このゲームでは両チームの3分間における理想的な得点差のグラフを8種類(反転を含めれば16種類)データとして持っており、プレイ時間が1分以上残っている場合はこのグラフに沿う様、一方のシュートが入りやすくなり、他方のシュートは入りにくくなる。
これにより対CPU時もVSプレイ時もプレイヤの力量に左右されず、あたかもプロの試合の様に劇的なシーソーゲームの展開となる。
ところで1Pプレイの場合、残りプレイ時間が1分になると、そのプレイヤが何回勝てるかをCPUが決定する。
従ってよほどの上級者やよほどの下級者でなければ、CPUが確率によって決めた回数だけを勝ち抜く(勝ち抜かされる)。
これにより上級者と下級者のレベルが中級化し、平均プレイ時間もディレクタの意のままとなる。ちなみに『ブレイズオブスティール』、『メインエベント』、『ディヴァステイターズ』もこれに近い方式を用いている。


【 12. テーマの選択】

テーマの良しあしでそのゲームが受け入れられるか否かが決まる。
大容量のキャラ・音も、練りに練った企画も、テーマ選択にミスがあれば全く無意味なものとなる
ではアメリカ市場に適したテーマは何かと言うと、ひとつの柱としてアタリが作ってきたものが挙げられる。
が、これらは日本人には理解でないものなので、決して真似をしてはいけない。
フットボールも固いテーマと言えるがチーム内にこの複雑なスポーツを知り尽くしている者が居なければ失敗は免れない。
この様に特別な例を省けば、時代は今現在、現実的な設定。この2点を重視すればまず間違いの無いテーマ選択となる。
詳しく言えば1985~1990年の地球上で、アメリカ人の認識の範囲内で行なわれている事(TV等も含む)で何ら違和感の無いものと考えれば良い。
具体的にはスポーツ・戦争・ドライブ・格闘・スパイをテーマとしたものが好まれる。
この他映画等の動向から考えて刑事をテーマとしたものがビデオゲームの未開拓分野として有望である。
他にもU.S.A.のTV・映画等の動向を重視すると良い。


【 13. 企画】

企画をたてる目的は商品を造る事であり、企画書は「高インカム」と「スケジュール」を約束するものでなければならない。
そのためには細部に渡る綿密な企画が必要(例えば敵Aの歩く速度にまで及ぶ)で、完全な企画書が出来るまで実質的なプログラミング等は始めない
又、ハード仕様や商品仕様を決め、誰が見ても同じ商品が出来上がる様にする。
ここまで完成された企画でなければスケジュールはたてられない。
スケジュールとは単なる時間割ではなく、他部署を半年にわたって拘束するものであり、よって提出者は進行に対して重大な責任を負う。
アップが延びた場合は生産・販売計画にもズレが生じ発売が異常に遅れる事もあり得る。
その場合企画が陳腐化している・発売好機を逃す等の弊害もあり、最悪の場合として他社から同類の商品が発売される可能性も大いにある。
つまるところ良いテーマなどは限られているので高インカムが期待できるテーマで、他社より早く発売する事が良い商品のポイントとなっており、企画の段階でこれらを充分検討しておかなくては本物とは言えない。


【 14. 完成度】

アメリカ市場に於いて、完成度など売り上げとは全く関係無い
もちろん完成度は高い方が良いしそれを目指せばチームのレベルも上がる。しかしマンパワーや開発期間に問題があれば完成度など度外視して良い。
日本と違い、ゲームにのめり込んでいるU.S.A.のプレイヤには完成度の高低は目に入らない
下手なキャラでも上手く動かせば彼らの頭の中では充分美しく映っている。
つまりチーム内で技術力に差があっても一方が他方を助ければ良く、もっと大きい所に目を移せば、企画が良ければ低次元の開発でも充分に売れるものが作れる。
賢く手を抜けばスケジュール問題の解決につながり、効率を上げる事にも役立つ


【 15. 資料】

確実で速い開発を行なう為に出来る限り多くの資料を揃える
TV・ビデオ・写真・本・プラモデルの他にスポーツ観戦や自衛隊の見学にはスチルカメラやビデオカメラを持って行き、大量に撮影を行なう。
取材無しで良い本が書けないのと同じで、企画の段階で大量の資料を揃える事が望ましい。
資料を買う支出を抑えるよりは確実で速い開発を行なう方が(売り上げを伸ばす等)計り知れないメリットがある


【 16. サイトテスト】

ロケーションテスト(ロケテスト)をこう呼ぶ。
先ず時間に関して述べると、基板の発送に約一週間を要する。速く送る方法もあるがあらゆるアクシデントを考慮し一週間は見ておいた方が良い。
この間にコナミインクと遊び方(プレイヤ用インストラクション)を折衝しておき、基板が到着した翌日にはテストを開始できるようにしておく。
ロケによってインカム表を毎日知らせてくれる所と週に一度の所があるので注意が必要。又希望するならアルバイトを雇い、プレイタイム等のデータも採ってもらえる(ロケによっては出来ない所もある)。この場合データ採りの終了をコナミインクに伝えなければいつまでも続けるのでデータ採りの期間を設定しておくこと。
又、メカがからむ製品については様々なトラブルが発生するので根気よくコナミインクと連絡を取り、現地の開発スタッフに余裕が有れば協力を求める。

ところでテスト期間についてだが、キット売りなら1か月、キャビネット売りなら2か月行なう事を勧める。
理由が有る。何度も言う様にU.S.A.は広大であるが故に商品が売れ渡る速度も日本に比べ非常に遅く、キット売りで1か月後、キャビネット売りで2か月後にインカムが落ちている様では営業に支障が出る
日本では一度に商品を掃いてしまう為、息の長さなどさほど重要ではないが(日本では回転を速める為高インカムで短命なものの方が良い場合がある)、上記の理由からU.S.A.でのテストにおいては1、2か月後のインカムこそが商品化後の売行きを占うデータとなる

最後に興味深いテスト法を示しておく。アップライト内は空洞が多く、VTRぐらいは問題なく入る。そこでキャビネット内にVTR用の台を作り、RGBエンコーダを通してプレイ内容を録画しておく事が可能となる。『ディヴァステイターズ』で行なってみたが、データ採りなどよりははるかに参考になり、実際のプレイヤによるバグチェックという意味においても実用性が非常に高い。この際キャビネットのモニタの色は多少落ちるが、既に言った通り、インカムに影響は無い。


【 17. 売値の設定】

大まかに言って、キット売りなら$1,000、キャビネット売りなら$2,000が目安となる。
キャビネット売りの値段が低い様に思えるが、アメリカ人は日本人とは比べ物にならないほど金に細かく、高いものは売れない
余談になるが、物価も安く、日本製のカメラ等も日本で買うよりは相当安い。
『ガントレット』や『オペレイションウルフ』でさえ$2,300で売られている。
『コントラ(パートⅠ)』がキャビネットで3,500台売れたのは価格が破格とも言える$1,700に設定された結果と言える。コナミインクでは『コントラ』に気を良くし、これ以降出来る限り安い売値を設定しようとしている。
しかしこれにはコナミ工業の出し値が関係することは言うまでもない。通常、出し値はキット売りの場合$500~550、キャビネット売りの場合は$700~750としている。少しでも多く売れてほしいのであればコナミインクからの売値を低くするのが賢明(インカムがそこそこでも安ければ『A-JAX』の様にストリートに売れる可能性が生まれる)で、この為にはコナミ工業の出し値を低くせねばならず、最終的に基板のコストが大きく左右する。
従って企画段階で出来る限りのコストダウンを図っておく事が商品の売行き、ひいては売上げに大きく影響を及ぼす。無駄なハード機能を省くという面においても企画の重要性が挙げられる。
この点から考えて、ローコスト基板の商品も有用である事を付加しておく


【 18. キャビネット】

特別な物を除いて全て木工となっている。
加工が容易であると同時にアメリカ人は「木」を好む人種らしい。
昔からU.S.A.市場のキャビネットは凝っていると思っていたが最近は特にこの傾向が高まってきた。
要因のひとつに同時複数プレイヤゲームの増大が挙げられるが、他方ではやはり差別化を重視している様に見受けられる。
モニタを動かす『デインジャーゾーン』、操縦桿で操作する『ゼノフォヴ』、ラジカセをデザインした『720°』、ランプ付ビッグボタンを並べた『パワードライヴ』、多くの面で構成された『ザイボッツ』。
キャビネットデザインの問題から奇抜なものを作るのはコナミにとって容易ではないだろうが、キャビネット売りをするのであればせめて操作部に手を加える事ぐらいは考慮しておきたい。でなければキャビネット売りのメリットは無く、企画の段階で商品仕様も決めておく必要があるのはこの為でもある


【 19. 世界的ヒットを目指す】

メーカーがヒットによって期待できる最大のメリットは高い売上げである。
世界の市場を大別すると日本・アジア・ヨーロッパ・アメリカの4地域となるが、プレイヤの指向面で分けると、現段階では「アメリカ」と「その他」に分けられる。従って全世界でヒットさせる最も容易な手法として2つのゲームを作る事が挙げられる。
『アルカノイド』や『アウトラン』等もちろん例外はあるが、今や全世界に1つの商品を浸透させると言うのは大時代の商法である
『メインエベント』の場合U.S.A.仕様のままでは日本で1,000枚も売れなかったと思う。日本仕様作成に二人月は要したが、これで2,000枚が売れたのであれば非常に安易な売上げだったと言える。
又、U.S.A.においてスペースシューティングは売れないと言われているが、この原因はU.S.A.仕様を作るメーカーが無いからであって、プレイヤの攻略と難度さえ先述の内容をしっかり踏まえてU.S.A.バージョン作成にあたれば『グラディウスⅡ』など絶対に売れると確信している。
『チエッカーフラグ』の様に非常に完成度の高いゲームが売れないのもU.S.A.バージョンを作らないからであって、作れば良い。
我社においてU.S.A.バージョンを作ってさえいれば、今期の売上げはどれほど伸びていただろうか。
業務用の売上げ目標が達成されているからといって安堵感に浸っていてはいけない。
考え方によっては、得る可能性のある売上げをみすみす見逃しているのであり、これではプロと言えない。
多少の手間は要するが、それで千枚単位の売上げ増加につながり、各個人のボーナスにも大きく影響を及ぼす。
日本用の企画をどの様にすればU.S.A.仕様になるかについては、あまりにも細かすぎ、この文面を通しては語れないが、事ある毎に遠慮なく尋ねてもらって構わない。

ゲームの樹

コナミでアーケードゲームを担当していた頃、ゲームの系統樹を作ろうとした。
過去の歴史を眺める為ではなく、2年先のウォンツを見出すツールとして。
忙しさにかまけて、ま、いろいろあって、作り上げられなかったが。

或る太い枝を「戦闘」とすると、
→ 戦闘機同士が機関砲を撃ち合う(ゼビウス)
→ 人同士が銃で撃ち合う(戦場の狼)
→ 1対1で必殺技を飛ばし合う(ストリートファイター)
→ 手足による打撃(鉄拳)

距離がどんどん接近している。これが真髄。
一連の中で、この法則が分かっていたなら、『戦場の狼』から『ストリートファイター』は導き出せる。
偶然だと思うが、『1942』をヒットさせたカプコンは、この法則を応用していたのかも知れない。

手足による打撃まで行き着くと、この一連の流れは終わる。とも思えるが、関節技がメインの総合格闘技的な方面への可能性が残っている。『鉄拳』でその片鱗が見える。
2000年迄に作るべきだったね。機を逸したかも。樹を逸したか。

系統樹にはもう一つ、波頭を知る効果も有るはず。
小さな波としては、バスケットボールゲームやガンシューティングの波頭予測。
大きな波、それは世代の波。
ゲーム業界も、もう30年。30年と言えば、人間の一世代で、つまり代替わりだ。
もしかすると、2010年頃から単純なソーシャルゲームが流行っているのも、これちゃう?

世間にはゲーム業界から追い出された者や、同じ会社に居てもゲーム製作から外された者が多い。
これらロートルにゲームの系統樹を作らせてはどうだろうか。
その時代を必死に生きた者でなければ、枝の切り口は分からない。
眠っている人材の活用にもなるし、眠っているウォンツを勘じゃなく、論理的に導き出せる。

TIME PILOTのヒミツ

1980年代はアーケード(ゲーセン)ビデオゲームの創成期であり、ゲームはソフトウェアプログラマにとって、限られたハードウェアで常識を超える画像・音響処理を競い合う競技の場でもあった。
見てビックリすれば、コインを投入してもらえる、つまり、ヒット商品となった。

ゲーム会社に入社する前は、ゲーム画像を見て単純にスゲエ!と驚いていたが、コナミに入社して、ハードウェアの制約を知った上で驚いたのは、82年に発売された『TIME PILOT』だった。

当時コナミ(大体どこの会社も同じだが)では、ハードウェア機能として、背景用の画像処理部をVRAMと呼び、敵機やその弾など画面内を独立して自在に動く画像処理部をOBJと呼んでいた。
VRAMはブラウン管の走査線垂直方向にスクロールさせるのが最新機能で、OBJはと言えば、大きさは16×16ドット、色は透明を含む4色で、それが16個(24個だったかな?)しか出せなかった。

大体どこの会社でも同程度のハードウェアスペックだったから、360度に弾を撒き散らしながら、これまた弾を撃ってくる敵機が編隊で現れ、雲が3D的に動く『TIME PILOT』は未来から来たゲームに見えた。

当然『TIME PILOT』は大ヒットした。
俺は音響担当プログラマだったので詳しくは知らないが、画像処理のタネ明かしをすると。
自機が360度、と言っても多分64方向ぐらいに撒き散らしていた弾はOBJではなくVRAMだった。これにより、どエライ数の弾が画面内を動きまくる。
ちなみに自機が方向を変えれば、発した弾の相対的な動きに影響が出るはずだが、多分無視。しかしプレイヤは気付いていないだろう。
走査線で言うところのブラウン管上半分にOBJを最大限設定し、走査線がそれらを走査し終えたら、OBJを下半分の設定に変える。するとOBJによる表示が2倍になる。これにより、どエライ数の敵機や敵弾が画面内を動きまくる。

このド肝を抜く画像処理のアイデアも発売早々に他社の知るところとなったようだが、これを開発したメインプログラマのH氏自身が業界誌で披露したので、技術系以外の業界人やソフトウェア技術者の卵にまで広まる知識となった。

ハードウェアの機能が高まり、10年後には不要な技術となったが、その間の多くの技術者には大きな影響を与えたと思われる。俺も使わせてもらった一人である(^^
広い目で見れば、H氏の公言は、創成期のゲーム業界を活性化させたと言える。
俺は尊敬しているし、俺がノウハウを出し惜しみしないようになったのは、H氏の影響かも知れない。

FPS的ゲーム様式ノススメ

ゲームへの向き合い方の違いにより、日本人は主人公操作タイプを好むが、米国人は主人公成りきりタイプを好む。
だから米国人はFPS(First Person shooter)を好み、日本人からは敬遠される。

『DOOM』発売前の1992年、コナミが発売した『Lethal Enforcers』は米国に限らず日本でもヒットした。
これは米国人の好む一人称視点ゲームではあるものの、動かないか又は強制スクロールだったので、日本人からすると標的を操作するゲームに見え、ゲーム趣向が正反対の日米のプレイヤに好かれた。

1982年にコナミから発売された『TIME PILOT』も日米でヒットしたが、俺は両国では違う理由でヒットしたものと思っている。
主人公(戦闘機)は画面内に据えられているが、360度自由に進む事ができ、FPSではないものの、その精神は当時としてはFPS的だった。
元来、こんな様式は日本人には馴染まない。事実これ以降、このタイプのヒットは無い。
しかし日本で売れた理由は、ハードウェアの制限が厳しい当時、信じられないぐらいのものが動きまくっていた点に有ると思われる。
敵機やその弾など、画面内を自由に動く画像制限が16個程だったのに、あのゲームを実現したのだから、正に未来から来たゲームのように見えたものだ。
これが日本市場に向かない様式なのに、日本でヒットした要因に違いない。

こうやって記述してみると、少なくとも米国でヒットする未開拓分野が見えてくる。よね(^^

日米の仕様分け

主人公の戦闘機が無数の敵戦闘機を撃ち進むゲームで、2度撃ち落とされ、3度目に撃ち落とされるとGAME OVER(3機仕様)ってよく有るけど、1度撃たれるとバリアーが半減し2度目で無くなり3度目で撃墜されてGAME OVER(エナジー仕様)にする方が米国には向いてる。
3機仕様ってのは、ゲームをあくまでゲームとして俯瞰的に見た設定で、スッキリしているので日本人には気持ち良く受け容れられる。
しかし米国人は主人公に成りきってゲームしてるんだから、そんな不自然なルールは興ざめする。
これに対してエナジー仕様なら撃たれる度に興奮するのが米国人。「よくもやりやがったな!」って怒りを煽る演出になる。

上記は単純な例だが、日米で同じ商品を出すにしても、最低限これぐらいの仕様変更はしなきゃそれぞれの国民に失礼。
実際はエナジー仕様なら増減の妙味も要るし、場合によってはエナジー制の3機仕様なども検討しなきゃならんが、世界中に売りたいなら手間は必須。

画面の外がプレイフィールド

米国でのアーケード(ゲーセン)ゲームの話だ。
日本では高技能者のプレイを眺めている光景はあるが、米国では少し状況が異なる。
異なるってどういう事かと言うと、2人でプレイするゲーム、もちろんアップライト(直立)筐体の手前に2人が並んで立ってプレイするんだけど、それが協力プレイであろうが対戦プレイであろうが、見知らぬ他人同士でプレイする。
肩が触れ合いながら知らん人と対戦プレイって日本じゃ気まずいっしょ。

協力プレイならボス敵を倒すと知らぬ同士でハイタッチするし、対戦プレイなら勝ったプレイヤが見知らぬ負けたプレイヤに目を剥いて歯茎を見せる。
見知らぬどころか、小学生と大学生でも並んで戦ってる。
下手な高校生を見かねて小学生が攻略法を教えながら対戦している。

で、プレイ中やクリアデモの間にめっちゃ喋る。
言わばゲーム機は社交の媒体に過ぎず、その画面の手前こそが主たるプレイフィールド。

だから米国に於いて多人数対応ゲームで心掛けなきゃいけないのは、如何に画面の外で話させるかって事。

例えば協力プレイゲームであってもプレイヤ同士で攻撃が当たるなんてのもOK。
「やめろーッ」って笑いながら叫ぶのもコミュニケーション。

4人プレイゲームのいいところは、コイン投入口が多いという大人の理由だけじゃなく、プレイヤが多い方が対話を増やしやすいから。
でもちゃんと対話を用意するのがゲーム屋の務め。増やしゃいーってもんじゃない。

米国のアーケードゲームに限らず、日本のソーシャルゲームだってそうだよね。

ゲームvs教育

元ゲーム製作者の俺が元教育者の人達と話すと、よく言われる事がある。
「あなた達のせいで学生が勉強せずに困りました」
ま、そこまで露骨ではないが、似たような事を言われる。
でも本当はそうじゃなく、
「学校での勉強よりゲームの方が面白いから」であり、
「ゲームは惹き付けるための対処を学校での勉強よりきめ細かくしているから」なんですよぉ。

「最終目標への意欲を駆り立てる」「身近な目標設定」「失敗は乗り越えさせる」「達成を褒める」
なんて手法(ゲーミフィケーション)がゲームには有るが、実はそれだけではない。
細か~いレベルで進行の度合いに分けて寄り添い、それでもダメなら別のアプローチに導き、それを個人個人に対してケアするんだから、現状の学校や塾で出来る業じゃない。
しかもそれが下手なゲームはクソゲーと呼ばれて淘汰されるんだから現状の学校とは比較できないほど厳しー。
お笑いに例えるなら、現状の学校教育がオヤジギャグ集団とすればゲームは吉本興業の人気集団と言えるわけで、洗練された後者に集まるのは自然な摂理。

でね、だから教育もゲーム並みのケアをすれば惹かれる分野になるわけですよ。
人間は元々知識欲の旺盛な生き物なんだから、教育はゲームを凌駕する分野になる。間違い無い!

ゲームへの向き合い方

日本はすごろく、米国はピンボール、これが要因か否かは知らないが、ゲーセンのビデオゲームは日本では椅子に座って見下ろすテーブル型が流行り、米国では立って画面に向かうアップライト型となっている。
1983年だったか、初めて米国に行ってゲーセンに入ってビックリした。みんな立ってプレイしてんだから!
逆に言うと、日本のゲーム開発者はそんなことも知らずに、そしてそれがもたらす特性も知らずに作っていたんだから、数年後、米国で日本製ゲームがパタッと売れなくなったのもうなずける。
で、ゲームをどんな風にプレイするかと言うと、日本人はレバーを軽く持って操作するが、米国人はレバー先端の玉を握って力任せに押し込む。
時折筐体が動いたりレバーが曲がったりする。
で、脳の中はどうなってるかと言うと、日本人は画面の中の主人公を的確に操作するのだが、米国人は画面の中の主人公に成りきっている。
今では米国人も主人公成りきりタイプから主人公操作タイプの人が増えたが、やはり本質は変わっていないので日米では同じものは受け容れられにくい。

『DOUBLE DRIBBLE』ヒットの最大要因

『DOUBLE DRIBBLE』がヒットした要因はいくつもあるが、その中で一番重要なのは、「ヒト対ヒト対戦時の難易度操作」だ。
それまでのゲームは「ヒト対CPU」に重点を置き、「少ないコインでヒトがどこまで勝ち進めるか」がテーマなので、勝ち進むほどCPUチームの難易度を上げてヒトを打ち負かすシステムだった。
ところが『DOUBLE DRIBBLE』は基本的に「ヒト対ヒト」に重点を置いた造りだった。
つまり、ソーシャルゲームのハシリのような仕様だった。

12分で1クォーター、4クォーターで1試合、よって1試合は48分。
この内の1分間を1トークン(コイン)で買い取って遊ぶ。結果が勝っていようが負けていようが、タイムアップで終了。監督が選手を試合の一部分に起用するという考え方。
だから「ゲームオーバー」ではなく「シャワーを浴びろ」で終わる。
バスケットボールでの時計はボールがアライブの時だけ進むので、コート外にボールが出た場合などのデッド状態では時計が進まず、実際は1トークンで1分半~2分を要する。
ヒト対ヒト対戦時は2トークンで1分。

『DOUBLE DRIBBLE』ではヒトBに対するヒトAの得点差グラフを持っている。
3分間を10秒ずつ18分割し、2,4,4,0,-3,-4,-7,-5,-3,-6,-2,2,5,7,3,4,1,3などのグラフを8パターン持ち、正負を逆転した場合を含め16パターンで、3×16の48分の時間を賄う。
この16パターンは1試合中はランダムに1回だけ使われるので、1試合では20兆以上の組み合わせパターンとなる。

『DOUBLE DRIBBLE』には選手の能力に様々なパラメータが存在する。
走る速さ、飛ぶ高さ、シュートの正確さ、ダンクの上手さ、などなど。
ある時、グラフ値が7だったとする。
この時、ヒトAの得点がBに対して+9だったらAのパラメータを下げてBを上げる。
もしヒトAの得点がBに対して+2だったらAのパラメータをめっちゃ上げてBをめっちゃ下げる。
こうした難易度操作により7に近づける。
もっともAがBよりも随分上手いプレーヤーならグラフの上ぶれは避けられないが、それなりに上下し緊張感のあるゲーム展開となる。従前のように差が開きまくることはない。

これにより、得点が大きく離れていてもあれよあれよと言う間に逆転劇が起こり、NBAのような試合展開となる。それが小学生対大学生であっても。
プレイヤーはビデオゲームを楽しんでいると言うよりは、NBAの試合を観ているというか、参加している気分に浸ることができ、NBAの試合を身近に観ている米国人にはたまらない仕様だった。
で、ついつい12トークンつぎ込んでしまう。2人でハーフプレイするのに48トークンぶっ込んでしまう。

欧州は日本寄り

「ヨーロッパなどという国は無い」とよく言われる。
欧州には慣習や気質の違う国々が集まっているのであって、1つにまとめることはできない。

とは言っても商売上まとめなきゃならないこともある。
そういう場合はまとめて考えるより他無いが、その趣向は米国には程遠く、日本の方がよほど近い。

自信は無いが敢えて言及すれば、
東京≒イギリス
大阪≒スペイン
京都≒フランス
青森≒ドイツ
って感じがするが、米国は日本の何処にも当てはまらない。列島広しと言えども取り付く島が無いのだ。